裏切りの理由…『駈込み訴え』太宰治|朗読


なぜ、その弟子は師を売ったのか? 同年でありながら、まったく違う二人の男。軽んぜられた恨み、劣等感、そして、愛。男の心理に嵐が吹きすさび、やがて小鳥のさえずりを聴くようになる……。

↓ネタバレ

小鳥のさえずり

ユダのキリストへの一方的な愛。それに対し、キリストからは意地悪く蔑まれていると、ユダは感じている。その懊悩から、精神に異常をきたしているかのように、クルクルと感情が変転する。そして、幻聴のような小鳥のさえずりを聴く。

ユダが姿を見ようとした鳥は、おそらくヒワだろうか。ヒワはアザミの実を突く習性がある。アザミには棘がある。キリストの茨の冠を暗示する。ヒワもキリストの受難を象徴している。キリストの「茨の冠」である、ユダに向かって、ヒワが責め立てるように鳴いているイメージか。

太宰の見事な語り

淀みなく流れ出ずるような語り。これは、口述筆記。奥さんなどが書きとる。スラスラと太宰の口から流れ出たらしい。

太宰の出身の青森などでは、冬の夜が長い。囲炉裏を囲んで色々と人々が語る。スマホもテレビもなかった時代、人々は語り合って過ごした。太宰には、そのような「語り部」の素地があったのだろう。

聖人と商人

同い年。ユダは、執拗にこだわっている。冒頭では「たいした違いが無い筈だ」と。しかしながら、二人は全く違う。ユダは劣等感を感じざるを得ない。「聖人」キリストに対し、「商人」であることを、ついにユダは宣言する。