人類を蝕む呪い…『文字禍』中島敦|朗読 #006

ゲシュタルト崩壊とは、全体を認識する能力を失う現象。人類は、文字によって、文化を繁栄させた。さて、文化は人類に本当に幸福をもたらしたのか? 文字の霊による、人類への呪い。(22分)

↓ネタバレ

「文字の霊」という豊かな着想

舞台はアッシリヤ(現在のイラク付近)。「文字」と言っても、粘土板に刻まれた楔形文字。文字に(物質としての)質量を与えている。草書のような、さらさらとした和文字ではない。これはちょっと、なかなか発想できないのではないか。

ゲシュタルト崩壊

ゲシュタルト崩壊とは、部分にとらわれ、全体性の認識を失ってしまうこと。あらゆることが細分化された現代では顕著かもしれない。

例えば、「仕事」といえば、サラリーマン、アルバイトといった雇用形態を想像しがちだ。しかし世の中に(対価を得られる)価値を提供できれば、それは仕事である。今後、さらに多様な価値を見出す必要があろう。

文字を知ったことでの弊害の描写も考えさせられる。人はより「拙速な充足」を求めるようになった。今では「二次元の恋人」を持つ者もいる。

中島敦のユーモア

『エヴァンゲリオン』や『進撃の巨人』で、時折コミカルな場面が挿入される。緊張の連続では、もたない。時々の弛緩が必要だ。『文字禍』でも、ユーモアが随所に見られる。

  • 「舌のない死霊に、しゃべれる訳がない」
  • 「図書館は瀬戸物屋の倉庫に似ていた」
  • 「文字に親しむようになってから、女を抱いても一向楽しゅうなくなったという訴えもあった。もっとも、こう言い出したのは、七十歳を越した老人であるから、これは文字のせいではないかも知れぬ」……等々